「奇譚クラブ」の絵師たち (河出文庫)

 

『薔薇族』編集長 (幻冬舎アウトロー文庫)

 

戦後エロマンガ史

 

武士道とエロス (講談社現代新書)

 

性風俗史年表 昭和戦後編―1945-1989

 

性風俗史年表 大正・昭和[戦前]編

 

性風俗史年表 1868‐1912 明治編

 

消える「新宿二丁目」―異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?

 

アメリカ性革命報告 (文春文庫 (330‐1))

 

ポルノ雑誌の昭和史 (ちくま新書)

 

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論

 

熟女の旅 (ちくま文庫)

 

 

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お立ち会い、犬娘だよ!

十二月の空っ風にオーバーの襟を立てて入ってゆくと、浅草稲村劇場の見世物は、はじまったばかりだった。
「かわいそうに、このおかあさん、ときとぷらずまにおかされたのです。ときとぷらずまにおかされると、動物ならば三つ目の化猫、口が二つの犬などがうまれるのですが、それがもしも人間の胎内にはいりこんでしまったら、どんな不具合がうまれるのでしょうか?」
哀調切々と解説する支那服の少女のそばに、サングラスをかけた一人の中年女が、火鉢をかかえこむようにして座っている。よき見ると、その中年女、腰から上半身は普通だが、腿がまったくなく、腰の下にいきなり細い赤児の手のような足がついているのだった。
「とうさんは大阪の人で、かあさんは八戸の人でした。とうさんハントにこりまして、ポインターをかっておりました。かあさん、このポインターのめんどうをみているうちに、だんだんポインターがかわいくなり、そのうちに、おなかが大きくなってしまったのです。何とおそろしい話ではありませんか」
まだ早朝の小屋の中には、私を入れても三人しか客はなく、しかもその中の一人は桟敷席で一生壜をかかえたまま眠ってしまっているのだった。
客席の中に入りこんだ犬が、「かわいそうな犬娘」を見ている私の靴の臭いをかいで尻尾をふっていた。支那服の少女は、客の多少にはほとんど関心がないという風に、ガーゼをまいたマイクを片手に持ち、べつの片手で「犬娘」を指さしながら、この呪われた物陰をつづけていった。
「そしてとうとう犬の子をうんでしまいました。かわいそうにかあさん、この四つ足のあかちゃんにたえきれず、八郎潟にとびこみ母子心中をはかりましたが、これも因縁でしょうか、あかちゃんの方だけが助けられて、一命救われました。みなさん、そのあかちゃんとは、何をかくそう、このひとです。どうかすみからすみまで、とっくとごらんください」
歩くときは――と、支那服の少女が一段と声をはりあげた。
「犬のように四つん這いで歩きます」
すると、サングラスの中年女は、「四つん這いで歩きます」と、無表情に反唱して、舞台のムシロの上を四つん這いで歩きだすのだった。
「こうやって歩くこともできます」
と、また支那服の少女が言うと、「犬娘」は「こうやって歩くこともできます」と反唱し、こんどは両足を座ぶとんでも抱くように両手で胸の前にかかえこんで、腰を使っていざり歩きをしてみせた。
「はい、こうやって歩くこともできます」と、支那服の少女がまた言うと、「犬娘」は、あぐらをかいて両足を抱き、そのままでべつのいざり歩きをしながら「こうやって歩くこともできます」と、繰返すのだった。 そして、一まわりし終えると、こんどは支那服の少女が、「眠るときは、こうやって眠ります」とかたり、犬娘は椅子の上に丸まって、あるかないかの足を抱いて、すやすやと眠るふりをし、どうやらそのまま眠ってしまうのだった。




寺山修司 「花嫁化鳥」収録「浅草放浪記」  冒頭部分抜粋

[ 2008-11-01 (Sat) 09:57 ]  
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